今年のアカデミー賞はモノクロ&サイレントの『アーティスト』や、トリック映画の始祖ジョルジュ・メリエスの晩年を扱った『ヒューゴの不思議な発明』など、映画草創期へのオマージュのような作品が注目されましたが、そんなタイミングでシネマヴェーラでまたサイレント特集です。
先週はずっと香川に行ってたので、ジガ・ヴェルトフの前衛映画『カメラを持った男(これがロシアだ)』が観れなかったのが悔やまれますが、トッド・ブラウニングの『知られぬ人』だけは絶対に見逃せなかった作品。念願叶って、やっと観れました。
しかし、いくらサイレントとはいえ、当時は画面に合わせた音楽演奏や、日本であれば活弁なんかも入ったはず。しーんとした無音の中で観るものじゃなかったと思うんですがね。
まったくの無音で映像だけを観るというのは、なんか変なかんじです。
昨日は『知られぬ人』と『カリガリ博士』の、カタワ&キチガイ二本立て。
『カリガリ博士』は48分の短縮版(オリジナルは71分)で、字幕が日本語に差し替えられているフィルムでした。むかしシネマシオンなどのオフシアターでやってたのと同じプリントかな?
ドイツ表現主義とか美術セットとかの切り口で言われる古典的名作。
そして『知られぬ人』。
この作品の存在を知ったのは、1999年に刊行された『フリークスを撮った男 トッド・ブラウニング伝』。
内容を要約すると、だいたいこんなかんじです。
サーカスの曲芸師・腕無しアロンゾは、じつは腕があることを隠しているが、その腕は親指が二本ある奇形。そして善人のように振る舞っているが、本当は残酷な本性を隠している。
アロンゾは、思いを寄せるサーカス団長の娘(男の腕を嫌悪するという奇妙な娘)に好かれるために医者を脅迫し、手術で本当に腕を切断する。
しかし戻ってみると娘は、嫌いだと言っていたはずのマッチョ男と結婚の約束までしている。
アロンゾは男を殺そうと画策するが、失敗して自分が死んでしまう。
アロンゾの本性も、真実も、誰にも伝わらないまま、幸せそうなマッチョ男と娘が映し出されてエンドマーク。
『魔人ドラキュラ』や『怪物団(フリークス)』を撮った人物がそれ以前にこういう映画を撮っていたという事実は、すごく腑に落ちるというか、もしかしたらトッド・ブラウニングという人物を知るうえでの最重要作品ではないかと思っていたんです。
実際クライマックスの、婚約の喜びを伝える娘の笑顔と、あまりのショックに笑うしかないアロンゾの残酷なカットバックは凄い。
アロンゾを演じたのは、『ノートルダムのせむし男』『オペラの怪人』で特殊メイクの印象が強いロン・チャニーですが、素顔はトミー・リー・ジョーンズに似ているんですね。
もうひとつ面白いのは、この作品は永年所在不明で鑑賞することができなかったのですが、フランスの公文書館に「誤って」保管されていたらしく、そのお蔭で再び陽の目を見ることができたのだそうです。
↑トッド・ブラウニングの評伝『フリークスを撮った男』
今日は『ロストワールド』と『竜宮城』の、コナン・ドイル&ジュール・ヴェルヌの冒険SF二本立て。
『ロストワールド』は51分の短縮版(オリジナルは63分)。『カリガリ博士』と同様、以前に日本国内用に字幕をつけたフィルムのようですが、こちらは差し替えではなく、タイプ方式のインポーズ。
ちゃんと比較したわけじゃないけど、ブロントサウルスがロンドンに来てからのシークエンスが物足りないような・・・。でもまさか、クライマックスの見せ場をカットしないよね。
『竜宮城』はヴェルヌの『神秘の島』を原作としながら、かなり改変されています。
これも国内ではなかなか観ることのできない作品。
珍しいパートトーキーで、全編に音楽や効果音は付いているんですが、台詞は冒頭のダカー伯爵の科学解説的なシーンと、中盤の、敵に捕らわれた伯爵の娘が通信を送ってくるシーンのみ。
つまり音を映画フィルムにレコーディングする技術はあるが、あとから演技にあわせて声をアテるのが大変なので、アフレコは部分的におこなわれた、ってことなんでしょうか??
前半は、ダカー伯爵が復元した海底人の不完全標本や科学力が示される程度で、研究を狙う軍隊との攻防がメイン。
後半、酸素残量の少ない潜水艦が海底に着くと、わらわらともの凄い数の海底人が湧いてでて、潜水艦を取り囲んだり引っ張ったり。
この海底人、カッパか忍者ハットリくんみたいで意外とキュート。登場のしかたも『未知との遭遇』の宇宙人ぽいんですが、浮上装置の壊れた潜水艦2号艇で伯爵を追ってきた敵と伯爵の助手の格闘で血が流れると、初めて人間の血を知った海底人は狂いだし、人間に襲いかかります。
ここで潜水艦が二隻あるというのがミソで、酸素のない1号艇から取り外した浮上装置を、装置の壊れた2号艇に取り付けて、無事生還。
しかし発明の悪用を恐れた伯爵はすべてを破壊し、潜水艦も海に沈めるのでした。
潜水艦のミニチュアはチャチですが、二種類ある潜水服のうち、海底の水圧に耐えられるように設計された金属製潜水服がナイス!
セパレート式で、着込む際にバカッと腰部から上下に分かれて上半身パーツが上に牽引され、下半身を着たあとに上半身パーツが降りてきて、パワードスーツみたい。
手もロビー・ザ・ロボットみたいなマニュピレーター風で、360度の視界を確保するガラス張りの頭部も、役者の表情がよく見えるという点からもよく出来たデザインだと思います。
あと、ワニに角や背鰭をつけた怪獣や、潜水艦に絡みつく大ダコなども登場。